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私は、映画「雪華葬刺し(日本・1982年作)」が好きだ。
雪景色の京都を舞台に、ある女と刺青を巡る人間模様を描いた作品である。
天才彫物師・彫経役の若山富三郎は豪快な殺陣で名高い俳優だが、本作では筆や刺針を意のままに扱い、寡黙かつ繊細な芝居で大いに魅せてくれる。
弟子・春経役は京本政樹。
引き締まった肉体の接写には若さが迸り、つい見とれてしまう。
主人公で司書の茜役の宇津宮雅代は凛とした美貌が印象的。
彼女の柔肌は雪花石膏の如く、まさに谷崎潤一郎作品で言う「天禀の肌」だ。
だがその肌の下では、背に刺青を施す事で夫の愛人に勝ちたい、刺青好きの夫に認められたいという暗く生々しい情念が渦巻いている。
施術中に茜の背を流れる一滴の血は、それを暗示した巧い演出と言えよう。
やがて茜は、夫の愛人が彫経の前妻である事、好意を寄せた春経がその実子である事を知る。
人の世の因縁の不可思議さを悟り、全てを受け入れて彫物の完成を請う茜の達観の表情が美しかった。
全編通して、京都と東京・花と雪・本妻と愛人・師と弟子といった「静と動」の要素の対比が見事だった。
一幅の絵巻物を眺め終えたような清冽な余韻を残す、芸術の薫り高い名作である。
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